兄弟姉妹での実家の相続トラブルについて

兄弟姉妹で実家を相続するケースについて

本記事では、両親が亡くなった場合の、兄弟姉妹での実家の相続トラブルについて説明します。

「相続財産が実家しかない」

「実家を含む相続財産をどう分ければいいか」

「両親と同居しており、両親が亡くなった後も実家に住みたい」

「誰も実家を相続したがらない」

などのお悩みをお持ちの方向けの記事です。
まず、「兄弟姉妹の相続割合」、「不動産の遺産分割方法」について説明を行います。その後、それぞれのお悩みについて説明を行います。

兄弟姉妹の相続割合

遺言書

遺言書

親が遺言書を残しており、相続割合の指定がある場合には、原則的にはその相続割合にて遺産分割を行うこととなります(ただし、相続人の最低限の相続割合は、次節で説明する遺留分という形で法律上保障されています)。

遺言書には、実家は売却して売却額を子どもで均等に分割してほしい旨、実家は長男に相続させ長男から代償金〇〇円を他の子どもに支払ってほしい旨などを記載します。理想的には親のご存命中に子どもと遺産分割方法について話し合い、その結果を遺言書に記載することが望ましいと考えます。

遺言書の方式、作成方法について知りたい方は以下のリンクをご参照ください。

有効な遺言書を作成したい

遺留分、法定相続分

遺留分、法定相続分

相続人が子どものみの場合の、遺留分、法定相続分について説明します。

<親が遺言書を残しているケース>

原則的に、遺言書の相続割合に従い遺産分割を行うことになりますが、遺言書での相続割合の指定に関わらず、相続人の最低限の相続割合は法律上保障されており、これを遺留分といいます。例えば、被相続人である実母が、長男に全ての遺産を相続させるという遺言書を作成して亡くなったとしても、次男は一定の割合の遺産を相続する権利があり、全てを相続した長男に請求を行うことができます。

<親が遺言書を残していないケース>

民法で定められた相続財産の分け方を法定相続分といいます。両親が亡くなり相続人が子どものみの場合、相続財産を子どもで均等に分ける分け方が法定相続分になります。
相続割合は法定相続分にとらわれずに、相続人の間の遺産分割協議にて自由に決めることができます。しかし、相続人の間で意見がまとまらず、審判に移行した場合は、法定相続分で遺産分割を行うことになります。そのため、遺産分割協議の目安として法定相続分を使用するケースもあります。

子どものみが相続人の場合の法定相続分、遺留分は以下の通りです。

<法定相続分>
相続財産を子どもの人数で分けます。
例)子供2人のみが相続人の場合。
兄弟姉妹の法定相続分

<遺留分>
相続財産の2分の1を、子どもの人数で分割します。
例)子供2人のみが相続人の場合。
兄弟姉妹の遺留分

法定相続分、遺留分の詳細は以下の記事をご参照ください。
法定相続分と遺留分の違い

不動産の遺産分割方法

不動産の遺産分割方法

まずは、一般的な不動産(土地・建物)の遺産分割方法について説明します。
以下の4つの方法がありますが、実家の相続においては「代償分割」、「換価分割」のどちらかとするのが良いケースが多いと考えます。「現物分割」、「共有分割」はご参考に説明いたします。

  • 代償分割
  • 換価分割
  • 現物分割
  • 共有分割

代償分割

代償分割とは、不動産取得により遺産を多く取得した相続人が、他の相続人に対して代償金を支払い、共同相続人の間の過不足を調整する分割方法をいいます。代償金は、不動産を取得する相続人の現金、預貯金などから支払われます。そのため、不動産を取得する相続人に現金、預貯金などがない場合には、代償分割はできないことになります。

換価分割

換価分割とは、不動産を売却してその代金を共同相続人に分配する分割方法をいいます。売却額から仲介手数料などの経費を差し引いた額に譲渡所得税が課されます。実家の資産価値が低い、共有分割により権利者が多いなどの理由で、売却が困難な場合もあります。換価分割は、金銭による清算という点で簡明な分割方法となります。

現物分割

共同相続人において不動産を現実に分けて分割することをいいます。
土地の所有者は登記所(法務局、地方法務局、その支局及び出張所)にて管理されています。そして、1筆という単位で地番がつけられ、地番ごとに所有者が登記されています。

相続人の間で、1筆単位で分割取得する方法があります。2人の相続人が2筆ある土地を1筆ずつ分割取得する例を示します。

相続前)
地番:〇〇一丁目1番
土地所有者:親1

地番:〇〇一丁目2番
土地所有者:親1

相続後)
地番:〇〇一丁目1番
土地所有者:子1

地番:〇〇一丁目2番
土地所有者:子2

1筆の土地が相続された場合は、1筆を2筆として登記し直すことができます。これを分筆といい、主に司法書士により行われます。
そのうえで、1筆ずつに分割して相続することができます。2人の相続人が1筆ある土地を分筆の上で1筆ずつ分割取得する例を示します。

相続前)
地番:〇〇一丁目1番
土地所有者:親1

相続後)
地番:〇〇一丁目1番1
土地所有者:子1

地番:〇〇一丁目2番2
土地所有者:子2

土地上に居住家屋がある場合には、分筆が困難となります。よって、実家の相続では現物分割は行えないケースが多いかと思われます。

共有分割

共有分割とは、不動産を現物のまま相続人の間で分割したいが、現物分割が困難な場合に、当該不動産の持分を法定相続分などの割合で決め、共有名義にすることをいいます。

例)
地番:〇〇一丁目1番
土地所有者:親1

地番:〇〇一丁目1番
土地所有者:子1:70%、子2:30%

共有分割は、遺産分割手続き上簡易な方法ですが、後日、相続人の間に問題を残すおそれが大きいので、避けるのが良いと考えます。

例えば、後に一方の相続人が不動産を売却したいが、もう一方の相続人は不動産を売却したくない場合に、共有物の分割請求訴訟の提起という、共有状態の解消のための裁判に発展する可能性があります(民法258条1項)。その際、不動産を売却したくない側が資金不足により、売却したい側の持分の価格賠償ができない場合には、裁判所によって競売を命ぜられる場合があります(同条2項)。
また、共有者の一部が死亡し、その相続人がさらに共有分割を行った場合に、権利者が非常に増えて管理が困難になるケースもあります。

相続財産が実家しかない

相続財産が実家しかない

相続財産が実家しかない場合について考えます。
前節の考察により、「代償分割」、「換価分割」のどちらかが選択肢となると考えます。

代償分割では、兄弟姉妹の1人が実家を相続し、他の兄弟姉妹へと代償金を支払います。
遺言書があり、実家相続の指定があった場合には遺留分を代償金として支払うことになり、遺言書がなく、遺産分割協議で実家相続が決まった場合には、法定相続分を代償金として支払うことになります。注意事項として、不動産を取得する相続人に代償金を支払うための現金、預貯金などがない場合には、代償分割はできないことになります(兄弟姉妹が代償金を放棄してくれた場合は別です)。

換価分割は、実家を売却してその代金を兄弟姉妹で分割する簡明な方法です。兄弟姉妹のいずれかが実家を残したいと考える場合、その意向には反する方法となります。

実家を含む相続財産をどう分ければいいか

実家を含む相続財産をどう分ければいいか

実家を含む相続財産の分け方について考えます。
基本的には、以下のいずれかが選択肢となると考えます。

  1. 兄弟姉妹の1人が実家を相続し、他の兄弟姉妹は他の財産を相続する。
  2. 兄弟姉妹の1人が実家を相続し、他の兄弟姉妹は他の財産を相続する。実家の相続人が遺留分、法定相続分を侵害している場合は、他の兄弟姉妹へと代償金を支払う(代償分割)。
  3. 実家を売却してその代金を兄弟姉妹で分割する(換価分割)。

1のケースは、実家以外の相続財産もある程度ある場合に選択肢となり得ます。
例1-1)
相続財産:実家(1000万円)、現金(600万円)
相続人:長男、次男
遺言書:長男に実家相続させる旨の記載あり
というケースでは、長男が実家(1000万円)を相続し、次男が現金(600万円)を相続すると、遺言書通りであり、また次男の遺留分4分の1(400万円)の相続もできているため、法的な問題はありません。

例1-2)
相続財産:実家(1000万円)、現金(1000万円)
相続人:長男、次男
遺言書:なし
というケースでは、長男が実家(1000万円)を相続、次男が現金(1000万円)を相続すると、法定相続分に従った2分の1ずつの相続を行うことができており、法的な問題はありません。

2の代償分割のケースは、実家以外の相続財産が少なく、遺留分、法定相続分を侵害してしまう場合の選択肢です。
例2-1)
相続財産:実家(1000万円)、現金(200万円)
相続人:長男、次男
遺言書:長男に実家相続させる旨の記載あり
というケースでは、長男が実家(1000万円)を相続し、次男が現金(200万円)を相続すると、遺言書通りですが、次男の遺留分4分の1(300万円)の相続を行うことができておらず、法的に問題があります。長男から100万円を次男に渡すことで遺留分の侵害はなくなり、法的な問題がなくなります。

例2-2)
相続財産:実家(1000万円)、現金(200万円)
相続人:長男、次男
遺言書:なし
というケースでは、長男が実家(1000万円)を相続、次男が現金(200万円)を相続すると、法定相続分に従った2分の1(600万円)ずつの相続を行うことができておらず、法的に問題があります。長男から400万円を次男に渡すことで法定相続分の侵害はなくなり、法的な問題がなくなります。

3の換価分割は、実家を売却してその代金を兄弟姉妹で分割する簡明な方法です。兄弟姉妹のいずれかが実家を残したいと考える場合、その意向には反する方法となります。

両親と同居しており、両親が亡くなった後も実家に住みたい

両親と同居しており、両親が亡くなった後も実家に住みたい

実家で両親と同居している子どもは、多くの場合、両親が亡くなった後も実家に住みたいと考えます。住み慣れた家から新しい家に引っ越すのは色々と手間がかかります。子ども(亡くなった両親の孫)がいれば、学校を転校しなければならない場合もあります。

実家を売却してはいけないので、換価分割以外の方法を考えることになります。前節「相続財産が実家しかない」、「実家を含む相続財産をどう分ければいいか」の換価分割以外の方法をご参照ください。その中で問題となるケースとしては、実家を相続したので、他の兄弟姉妹の遺留分、法定相続分を侵害しないように代償金を支払わなければならないが、不動産を取得する相続人に現金、預貯金などがなく代償金が支払えないというケースかと思います。

その場合には、遺産分割協議にて、換価分割を行い近くの賃貸に引っ越すなど代替案について話し合いを行うこととなります。

誰も実家を相続したがらない

誰も実家を相続したがらない

誰も実家を相続したがらないケースでは、実家を売却してその代金を兄弟姉妹で分割する換価分割を行うこととなります。
もし、親の生前に子どもが実家を相続しない旨を伝えられるのであれば、親としては生前の内に実家を売却して老人ホームに入居する方法もあります。また、リバースモーゲージを利用して、実家を担保として生活資金の融資を受け、年金のように毎年一定額を受け取り、死亡時などに自宅を売却処分して借入金を一括返済するという方法もあります。

投稿者プロフィール

吉川 樹士
吉川 樹士弁護士
弁護士。東京アライズ法律事務所所属。著作に「3訂 終活にまつわる法律相談 遺言・相続・相続税」、「相続実務が変わる!相続法改正ガイドブック」など。モットーは依頼者様と弁護士が対話を通じて、『最善の解決イメージ』を共有すること。