相続財産の不正な使い込みへの対応

相続財産の不正な使い込みへの対応

「亡くなった方の同居人が相続財産を使い込んだ形跡がある」

「死亡後に貯金が引き出されている」

「亡くなった方の貯金が大幅に減っている」

また、逆の立場から
「相続財産を使い込んでしまった」

「正当な理由があって使用したのに、相続財産を使い込んだと言われる」

などのお悩みをお持ちの方向けに、相続財産の使い込みについて説明します。

相続財産は遺産分割協議、法定相続分、遺言書などに基づき、分割について取り決めが行われますが、それを無視して相続財産を不正に使い込まれてしまった場合の流れについて説明します。また、正当な理由があり、不正な使い込みではないケースについても説明します。

相続財産とは

相続財産とは
 
相続の対象となるもののことを相続財産といいます。相続財産には以下などがあります。
  • 現金、預貯金、小切手
  • 株券、債券
  • 土地、建物
  • 借金

相続財産の詳細については、以下のリンクをご参照ください。
相続財産には何があるか

相続財産を不正に使い込まれた場合の流れ

相続財産を不正に使い込まれた場合の流れ

相続財産が不正に使い込まれている場合、まずは相続人同士の遺産分割協議での話し合いとなります。
使い込みがあったことを認め、使い込み分を戻して相続財産を分割することになれば問題はありません。しかし、使い込みを認めない場合や、不正な使い込みはしていないがそれを信じてもらえない場合などに、話し合いが平行線となってしまいます。

その場合には、家庭裁判所による遺産分割調停や遺産分割審判に移行しますが、調停、審判に不正な使い込みかどうかを決定する権限はありません。そのため、さらに裁判に移行するケースが多いかと思います。

裁判にて、相続財産を不正に使い込まれてしまった側は、「不当利得返還請求」または「不法行為に基づく損害賠償請求」を行い、相続財産の返還を求めることになります。どちらの主張でもいいのですが、「不法行為に基づく損害賠償請求」よりも、「不当利得返還請求」の方が時効が長いため、「不当利得返還請求」が行われるケースの方が多いかと思われます。

以下、「不当利得返還請求」、「不法行為に基づく損害賠償請求」について説明します。

1.不当利得返還請求
民法703条により、法律上の正当な理由なく、他人の財産または労務により利益を得て、それと引き換えに他人に損失を及ぼした者は、その利益を返還しなければなりません。そのため、相続財産を使い込まれた場合、自分の法定相続分の範囲で返還を請求する権利があります。
不当利得返還請求の時効は、権利を行使できることを知ったときから5年となります。

2.不法行為にもとづく損害賠償請求
不法行為により損害を受けた場合は、加害者に損害賠償を請求することができます。
損害賠償請求の時効は、損害および加害者を知った時から3年となります。

 

なお、配偶者や直系血族による使い込みの場合は、窃盗罪、横領罪などは成立せず刑事事件とはなりませんので、刑務所に入れられる、前科が付くということはありません。

 

不正な使い込みではないケース

不正な使い込みではないケース

相続財産が使い込まれているのではなく、正当な理由で使用されただけというケースもありえます。また逆の立場から、使用には正当な理由があるのに不正な使い込みと指摘されて困っている、というケースもあるかと思います。

不正な使い込みではないケースには、以下などがあります。

1.被相続人の依頼で生活費などを引き出していた
被相続人の依頼で、生活、介護などのために預金を引き出していたということであれば、不正な使い込みではありません。

2.贈与されたものである
生前贈与、または遺言書による遺贈である場合は、特別受益と呼ばれ、相続分の一部が先に渡されたという扱いになります。
相続人の間での公平を図るために、その分相続の割り当てを減らすこととなります。
ただし、特別受益が法定相続分を超過している場合、その超過分によりほかの相続人の遺留分が侵害される場合、遺言書の中で特別受益による相続の割り当てを減らさないように意思表示している場合、などは単純に割り当てを減らす対応とはなりませんのでご注意ください。

3.介護などで貢献したため寄与分である
妥当な額であれば不正ではなく、民法第904条の2により、寄与分を相続財産から控除したものを基礎として、各相続人の相続分を算定することになります。

4.勘違いであり実は使っていなかった
このようなケースもありますので、使い込みが疑われるが、相手が使用したこと自体を否定している場合などでは、証拠の確認が必要となると思われます。

 

不正な使い込みかどうか確認したい

不正な使い込みかどうか確認したい

相続人同士は親族など近い間柄ですし、お互い疑いを持たずに遺産分割が行えるといいですが、ある相続人が不正な使い込みをしていないと主張しているが、疑わしいので証拠を確認したいというケースもあるかと思います。
いくつかの証拠の確認方法について説明したいと思います。

被相続人が亡くなった後に預金が引き出されているか確認したい

被相続人が亡くなった後に、預金が引き出されているかどうか確認したい場合は、銀行口座の引き出し履歴を確認します。

被相続人が亡くなった時に、多くの場合は相続トラブルを防ぐために、銀行へ連絡し銀行口座を凍結します。そのため、被相続人が亡くなってから、銀行口座が凍結されるまでの間の引き出し履歴について確認することになります。

なお、銀行口座の凍結により、口座での取引は原則不可能となります。法定相続人による当面の資金の引き出しが一部認められていますが、銀行への書類提出が必要となり、キャッシュカードで相続財産を勝手に引き出し使い込むということはできなくなります。
凍結された口座については、相続がまとまった後に、遺言書、遺産分割協議書、家庭裁判所の調停調書などの相続書類を提出し、払い戻しの手続きを行うこととなります。

預金が引き出されているかを確認する方法は以下の通りです。
・預金通帳から確認する。
・銀行に取引履歴を発行してもらう(法定相続人である証明として戸籍謄本などが必要)。
・弁護士に依頼し、23条照会を行う。

逆に、被相続人が亡くなった後で銀行口座の凍結前に預金を引き出さなければならないときには、使い込みの疑いが生じる可能性を考慮し、使途や領収書を保管しておくとトラブルを防ぐことにつながります。

 

預金が大きく減少しているが、不正な使途でないか確認したい

大体の預金額を、生前に被相続人から伝えられていたが、聞いていた額から大きく減少しているような場合には、まずは前述の預金の
取引履歴を確認します。その結果、もし多額の引き出しがあった場合には、その使途について裏取りされると良いかと思います。

  • 多額のお金が車や不動産の購入などで必要だったとして、実物や写真が存在するかどうか
  • 亡くなった方の生活費だったとして、妥当な額かどうか
  • 生前贈与されたものだとして不自然な点はないか

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投稿者プロフィール

吉川 樹士
吉川 樹士弁護士
弁護士。東京アライズ法律事務所所属。著作に「3訂 終活にまつわる法律相談 遺言・相続・相続税」、「相続実務が変わる!相続法改正ガイドブック」など。モットーは依頼者様と弁護士が対話を通じて、『最善の解決イメージ』を共有すること。