DNA鑑定で親子関係が否定されると法律上も親子関係が解消されるのか?

DNA鑑定で親子関係が否定されると法律上も親子関係が解消されるのか?

 

1.はじめに

   DNA鑑定で父子の血縁関係がないことが分かれば父子関係不存在確認の訴えを提起し父子関係を解消できるかが問題となった最高裁判決が平成26年7月17日第一小法廷において3件ありました(最高裁平成26年7月17日第一小法廷判決)。
いずれも夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子の事案ですが3件のうち2件(これらの原審は①札幌高裁平成24年3月29日判決(以下「本札幌高裁判決」という。)及び②大阪高裁平成24年11月2日判決(以下「本大阪高裁判決」という。)である。)はいずれも妻が子の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えを提起した事案であるのに対し他の1件(原審は③高松高裁平成25年11月21日判決(以下「本高松高裁判決」という。))は夫が子の出生を知った後1年を経過してから親子関係不存在確認の訴えを提起した事案です。いずれの事案においても親子関係が否定されたのかどうかについてご紹介していきたいと思います。

 

2.本高松高裁判決についての最高裁判決の内容

   この事案の概要は新聞報道等によりますと夫が子2名とのDNA鑑定を実施したところいずれも血縁が否定されたとして子の出生を知った後1年を経過してから親子関係不存在確認の訴えを提起したというものです(なお妻側は他の男性との性交渉はなくDNA鑑定は信用できないと主張していました。)。
最高裁判決は夫(上告人)が嫡出否認の訴えについて1年間の出訴期間を定めた民法777条が憲法13条14条1項に違反すると主張したのに対し「民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出子であることを否認するためにはどのような訴訟手続によるべきものとするかは立法政策に属する事項であり同法777条が嫡出否認の訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは身分関係の法的安定を保持する上から合理性を持つ制度であって」憲法13条14条等に違反するものではないと判示し上告を棄却しました(原審の本高松高裁判決及び第1審判決も親子関係不存在確認の訴えを提起できないと判示しています。)。
この判示は嫡出否認の訴えの規定を設けた趣旨からすれば格別異論のないところだと思われます。

 

3.本札幌高裁判決及び本大阪高裁判決についての各最高裁判決の内容等

(1)本札幌高裁判決及び本大阪高裁判決の各事案の概要
    1. 本札幌高裁判決の事案は妻が夫と婚姻中に交際相手との間の子を平成21年に出産したが同出産の1年3か月後(平成22年)に夫と協議離婚(子の親権者は妻と定める。)し現在では妻子は交際相手と共に生活をしている状況下において妻が平成26年6月子の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えを提起したものです。
  1. 本大阪高裁判決の事案は妻が夫と婚姻中に交際相手との間の子を平成21年に出産したが平成23年に子を連れて自宅を出て夫と別居し(妻の提起した離婚訴訟中である。)同年から子と共に交際相手及びその前妻との間の子2人と同居している状況下において妻が平成23年12月子の法定代理人として親子関係不存在確認の訴えを提起したものです。
(2)各最高裁判決の内容等
    1. 原審の本札幌高裁判決及び本大阪高裁判決はいずれもDNA鑑定により夫と妻との生物学上の親子関係の不存在が明確であること既に子が妻の監護下あるいは妻とその交際相手に育てられている事情が認められ子には民法772条の嫡出推定が及ばない特段の事情があるとして親子関係不存在確認の訴えを適法と判断しました(いずれの第1審判決も同旨)。
  1. しかし各最高裁判決は以下のとおりいずれもほぼ同内容の判示をし原判決を破棄し第1審判決を取り消し上記訴えを却下しました。すなわち本札幌高裁判決についての最高裁判決(なお同判決と本大阪高裁判決についての最高裁判決との違いは括弧内に記載した。)は「民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとしかつ同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。そして夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかでありかつ夫と妻が既に離婚して別居し子が親権者である妻の下で監護されているという事情(本大阪高裁判決では当該太字部分が「子が現時点において夫の下で監護されておらず妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情」)があっても子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから上記の事情が存在するからといって同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。(中略)もっとも民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について妻がその子を懐胎すべき時期に既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ又は遠隔地に居住して夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから同法774条以下の規定にかかわらず親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁前掲最高裁平成12年3月14日第三小法廷判決参照)。しかしながら本件においては甲(筆者注:妻)が被上告人(筆者注:子)を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。」と判示し本件訴えは不適法として却下すべきであるとしました。
    このように最高裁ではDNA鑑定で親子関係が否定されたことをもって法律上も当然に親子関係は否定されるものではないと判断されました。
    なお両最高裁判決はいずれも5人の裁判官が3(多数意見)対2(反対意見)に分かれており多数意見のうち2名の裁判官(櫻井龍子裁判官山浦善樹裁判官)は補足意見を述べいずれも本件のような親子関係の重要・基本的な事項は立法の課題として検討されるべきであるとしています。

4.若干の感想

   多数意見反対意見のいずれに与するかは嫡出推定の制度を重視するか子の生活実態や利益を重視するかによって分かれる大変難しい問題であると思いますが両最高裁判決の事案は反対意見が述べるようにいずれも①夫婦関係が破綻して子の出生の秘密が露わになっておりかつ②子が血縁関係のある父と同居し法律上の親子関係を確保できる状況にあると認められる事案です。このような場合は子の生活実態や今後の子の利益が重視されるべきであり子からの親子関係不存在確認の訴えが認められないと子が血縁上の父との間で法律上の実親子関係を成立させることが永久にできないことになること等の事情を考慮しますと反対意見に賛成したいと思います。
なお金築裁判官が反対意見で指摘するように家庭裁判所の実務においては当事者間で合意がある場合には家事事件手続法277条(旧家事審判法23条)の合意に相当する審判により嫡出推定を否定する方向でこの種の紛争の解決が図られることが少なくないといわれています(内田貴著「民法Ⅳ[補訂版]親族・相続」(東京大学出版会2004)171頁以下参照。なお札幌家審昭和41年8月30日家裁月報19巻3号80頁参照)。

以上