内縁の夫が死亡した場合において夫所有の家屋に同居していた内縁の妻はその後も居住することができるか

内縁の夫が死亡した場合において夫所有の家屋に同居していた内縁の妻はその後も居住することができるか

 

1.はじめに

   新民法では配偶者の短期居住権及び長期居住権について明文化されたわけですが内縁の夫婦の一方が死亡した場合の他方の居住権について規定されていません。そこで裁判ではどうなっているかをまずご説明します。

 

2.裁判例の紹介(要旨)

①最高裁昭和39年10月13日判決(民集18巻8号1578頁)
本判決では原判決(福岡高判昭和37年4月30日下民集13巻4号942頁)同様に内縁の妻に居住権までは認定せずに相続人の家屋明渡請求が権利の濫用にあたり許されないと判示したものを追認しました。そして権利濫用の反射的効果として居住が認められることになります。②最高裁平成10年2月26日民集52巻1号255頁
内縁の夫婦がその共有(各持分2分の1)する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきた場合において内縁の夫が死亡しその相続人が共有持分2分の1を相続して内縁の妻にその持分2分の1を超える使用利益につき不当利得の返還請求をした事案において特段の事情のない限り両者(内縁の夫婦)の間においてその一方が死亡した後は他方が当該共有不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認するのが相当であるとして不当利得返還義務を負わない旨判示した。
本判決は内縁の夫婦間の使用貸借の合意を認めたものではなく共有物の単独の使用収益に関する合意について事実推定を認めたものであると解されます(常岡史子「内縁の夫所有の建物についての内縁夫婦間の使用貸借契約の成立と内縁の夫の相続人から内縁の妻に対する明渡請求」(判例評論633号18頁)。他の共有者である内縁の夫の相続人は共有解消のために共有物の使用分割請求(民法256条)等をすることになると思われます(しかしこの分割請求が更に権利の濫用になる場合もあると思われる。)。

③大阪高裁平成22年10月21日(判時2108号72頁)
内縁の夫の唯一の相続人(長女)が内縁の夫所有の建物に同人と同居していた内縁の妻に対して建物明渡請求等をした事案において内縁の妻は40年にわたり内縁の夫に尽くし内縁の夫が相続人たる長女のほか長女の夫内縁の妻その兄夫婦の前で自分にもしものことがあったら内縁の妻に本件建物をやりそこに死ぬまでそのまま住まわせて1500万円を渡してほしい旨申し渡しているなどの事情から黙示的に内縁の妻が死亡するまで本件建物を無償で使用させる旨の本件使用貸借契約が成立していたものと認めるのが相当であるとして本件明渡請求を棄却した(なお本判決は使用貸借契約の書面化をしていなかった点につき内縁の夫が長女側に何回もその旨の意向を伝え長女もその意向を認識していたのであえて書面化まで必要であると考えていなかったとしても格別不合理ではないなどと判示)。
本判決は原判決(神戸地判平成22年10月21日判時2108号77頁)が使用貸借契約の存在を否定して権利濫用の法理を適用して明渡請求を棄却したのに対し権利濫用の法理に委ねることなく内縁の妻の死亡までの使用貸借契約の存在を認めたものです。

 

3.上記裁判例及び本設問の各検討

   本設問のような事例上記③の事例のように内縁の夫婦間に明確な使用貸借の合意が認められない限り(同契約書を作成しておくか相続人側にも使用貸借契約の成立を明確に伝えることが必要である。)使用貸借契約の成立の認定は難しいといえます。但し内縁関係が長期間に及ぶ場合は権利濫用の法理によって相続人の家屋明渡請求が否定されることになります。
本設問では内縁の夫婦間に使用貸借などの契約書の取り交わしや使用貸借の合意が認められないので使用貸借契約の成立を認めるのは困難ですが20年にわたって同居していたので内縁の妻の居住の必要性等を考慮し権利濫用の法理によって相続人の家屋明渡請求を拒むことができる場合があると考えられます。
なお権利濫用の法理が適用される場合において内縁の妻が今後居住できる期間が問題となりますが結局は同居期間内縁の妻の居住の必要性・居住を必要とする期間居住家屋の使用の目的・方法相続人の家屋使用の必要性等の諸事情を総合的に判断して決められるものと思われます(使用貸借の期間につき最判平成11年2月25日判時1670号18頁参照)。このようなケースの解決法として相続人が内縁の妻の承諾を得て本件家屋及びその敷地を売却しその売却金の一部を内縁の妻に立退費用等として交付することも考えられます。
ちなみに遺産分割前の遺産共有の事案において共同相続人の1人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物に被相続人と同居してきた場合は特段の事情のない限り被相続人死亡時から少なくとも遺産分割終了までの間は被相続人の地位を承継した他の相続人を貸主同居相続人を借主とする建物の使用貸借契約が存続するとした裁判例があります(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁)。しかし内縁の妻の居住保護の観点からこの裁判例が本設問のような事例に直接適用されるとは思われません。

以上